2011/06/19 Sun
 2009年に地裁に続き大阪高裁でも、不正介護報酬1億円の返還請求を認める判決を得た住民訴訟の舞台が最高裁に移っている。

 不当にも上告した堺市は、「事業者の管理者が常勤でないことは軽微な瑕疵にすぎず、介護報酬の支払いの障害とならない」(堺市の「上告理由書」)などと、おどろくべき主張を行っていた。これらの上告についてはいずれも今年4月21に最高裁で「棄却」が決定した。

 しかし、補助参加人である事業者(社会福祉法人啓真会)の行った「上告受理申立」のうち、「大阪府知事の指定取消権限との矛盾」についてだけ、最高裁は「上告審として受理」とし、弁論が行われることになった。

 要するに、常勤管理者不在を偽って指定を受けて介護報酬を受け取っても、指定取消権限を持つ大阪府知事が指定取消処分を行っていないので、堺市に介護報酬を返還請求権はない という 主張について その当否が争われることになったのである。

 しかし、私にすれば 「何を今さら」 というところである。

 大阪府は、この事業者のデイサービス指定時に認知症専用型の加算を認めながら、一方で定員を15人として指定するという初歩的ミスを犯した上に、常勤管理者不在についても、不十分な監査により、それを立証できず、指定取消に踏み切れなかっただけのことである。
 詳しくは 不正社会福祉法人かばう行政職員の堕落 07年10月5日 参照

 大阪府知事は、地裁判決・高裁判決を真摯に受け止め、今からでも指定取消処分を行えばそれですべての「矛盾」が解消するのである。
 
 さらに、その後の法改正で、2006年度からはデイサービスセンター(認知症専用型)は地域密着型サービスとして堺市長の指定権限となり、さらにこの6月に参議院を可決成立した介護保険法改正では、居宅サービス事業者の指定・監督権限が政令指定都市に移譲されることになっており、すべてが堺市長の権限となる。

 もはや 「大阪府知事との指定取消権限との矛盾」は、来年度には完全に解消するのである。

 いまさら、最高裁で そんな後ろ向きの議論をすることに 何の意味があるのであろうか。

 6月16日には、最高裁第一小法廷で弁論が行われた。判決は7月14日とのことである。司法の良識ある判断を期待するものである。

 以下、意見陳述要旨の抜粋

本件訴訟が問題とした啓真会の不正請求行為
1 問題とした行為 
 本件訴訟において当初、問題となった啓真会による不正請求行為は、
 ① その運営する出屋敷デイサービスセンターにおいて、看護職員の勤務実態を偽り職員配置基準を満たさないサービス提供時間についてしかるべき減算をしないで、また、実際には通所介護サービスを受けていない時間帯にも利用したように装った虚偽の通所介護記録を作成し、堺市に2800万円を下らない額の介護報酬を不正に請求し受領した行為
 ② その運営する出屋敷ヘルパーステーションのケアハウス入居者に対し、実際にはケアハウス職員が行った施設サービスを、訪問介護員が行ったかのように偽り、堺市に500万円を下らない額の介護報酬を不正に請求し受領した行為  
 ③ そもそも、その経営する介護保険の指定事業所において、専従勤務の見通しのない者を管理者とする虚偽の申請により指定を受け、その後も管理者不在の状態のまま、虚偽の報告を行い続け、不正に介護報酬を受け取った行為
 の3つである。
 これらの指摘に対して、堺市長は当初、いずれも争う姿勢を見せたが、本件訴訟提起後に以下の通りの動きがあった。
2 本件訴訟提起後の動き
(1)上記②の不正請求行為に関して

 本件訴訟提起後の、平成17年8月24日、大阪府は、上記②の不正請求行為の事実を認めたことを根拠として、介護保険法第77条第1項第3号の規定により、啓真会の指定居宅サービス事業者の指定を取消すとともに、経済上の措置として、事業者から保険者である堺市に対し、不正に受け取っていた介護給付費633万982円を返還させたばかりでなく、介護保険法第22条第3項の規定により100分の40を乗じた加算額を支払わせることとした(甲6、甲16、甲17)。
(2)上記①の不正請求行為に関して
 本件訴訟提起後の、平成18年1月30日、堺市は、介護保険法第24条の規定による実地指導の結果、上記①の不正請求行為の事実に付き「不適正な請求の事実」として同事実の概要を認めたことを根拠として、啓真会に不適正な請求により受給した介護報酬3135万5038円の返還を請求し、これを支払わせた(甲18、19)。
(3)啓真会の悪質性
 このうち、特に②の事実は、啓真会が故意により、組織的に行っていた不正請求行為の事実を認めたものであって、啓真会の悪質性を示すものと言える。

第4 上告審において、問題となるのは③
  その結果、現在、上告審で問題となっているのは、③の専従勤務の見通しのない者を管理者とする虚偽の申請(具体的には、常勤であるH幼稚園の事務長の地位にある人物を常勤である介護保険事務所の管理者としたこと)により指定を受け、その後も管理者不在の状態のまま、虚偽の報告を行い続け、不正に介護報酬を受け取った行為について、である。
 大阪地方裁判所は「啓真会が本件各指定にかかる申請に当たり作成した管理者経歴書に、Tが本件幼稚園の事務長であることを記載しなかったのは、これを記載すると上記基準に抵触して本件各指定がされなくなると考え、あえてその経歴を秘匿したものと推認できる」とし、勤務実態としても「Tは、本件幼稚園の事務長の仕事を兼務しているため、本件各センターの管理者としての勤務状況は不良で、常勤とは評価し得ないものであったと認められる」と認定した。そして、「啓真会が本件各指定を受けたことを前提として受領した金員は「偽りその他不正の行為により支払を受けた」(法22条3項)ものに当たると解されるから、堺市長は啓真会に対し、その全額(ただし返還済みのものを除く)を請求することができる。」としたのである。
   そして、これらの事実認定・判断は大阪高等裁判所でも維持された。
第5 補助参加人(啓真会)の主張に対して
  啓真会は、上告受理申立の理由として、市町村が、指定取消事由に該当する事実をもって、法22条3項の「偽りその他不正の行為により」にあたるとし、これを理由に保険給付の返還請求を行うには、都道府県知事の有する指定取消権限の行使との矛盾を生じさせないために、「現に都道府県知事の指定取消処分を行ったか、そのような処分が行われることが確実な場合に限られる」と解すべきとのべる。また、少なくとも、都道府県知事による指定取消がなされていたかどうかは「偽りその他不正の行為により」の認定にあたって主要な判断要素であり、大阪府の判断が合理的根拠に基づかないなど特別の事情がない限りは、府の判断を是とすべきと主張する。
  しかし、啓真会が述べる弊害とは、保険給付全額を返還することで事業者の資金繰りが苦しくなるという点に尽きる。しかし、返還するのはあくまで「偽りその他不正の行為により」受けた給付なのであり、本来、その事業者が保有していてはならない資金の返還に他ならない。
 その結果、事業の継続が危殆に陥ることがあっても、それは不正な行為を行ったことによるツケであり、そのような不正を働こうという事業者を介護保険事業から排除していくこと、退場頂くことこそ、介護保険制度の適切な維持のために必要な事である。
 また、介護報酬の返還請求を行うことと指定を取消すことは法律上明確に異なる。法は府市それぞれにそれぞれの権限を与えている。法は府の指定取消権限と市の返還請求権に優劣を付けていないのであって、府市はそれぞれの権限を行使するべきものである。
 市町村には、保険者として介護保険費用を適正に管理するために、偽りその他不正の行為による保険給付の不正受給に対しては返還請求を行うことが出来る権限が与えられているのである。この権限を規定する法22条3項は、その対象を「偽りその他不正の行為により」とするのみであって、指定取消事由に該当する場合を除外したり、特別な制限を課してはいない。
 市町村が、不正な手段により指定を受けたことによって保険給付を受給したことが「偽りその他不正の行為により」受給したことにあたると判断して、当該事業者に対し、設置以来の介護報酬全額の返還を求めること、それは、あくまで市町村の権限である介護報酬返還請求権の行使そのものであり、府の指定取消権限を侵しているものではない。
 本件について、大阪府知事による指定取消がなされていない事実については、原判決においても、「偽りその他不正の行為により」の認定にあたって十分な考慮がなされている。
 原判決は、証拠に基づき、大阪府知事が指定取消をしていない理由を、「大阪府は、Tが管理者として明らかに常勤勤務をしていなかったことを裏付けることができなかったために、不正と判断しなかったことが認められる」と事実認定した。そのことを踏まえても、証拠上、Tが管理者として常勤勤務していなかった事実を認定できる以上は「偽りその他不正の行為により」に該当すると判断したものである。
 本件で指定手続きにおいて、補助参加人に不正があり、取消事由があることは、すでに地裁、高裁判決で認定されてきたことである。本審においても、指定手続きの際に違法はなかった(あるいは極めて軽度の不正であった)という上告人、補助参加人の主張は既に、排除されている。
 介護保険法の趣旨に則り、堺市長は自らの権限に基づいて請求することが求められる。大阪府の判断と矛盾が生ずるように見えても、優劣がない以上、府が真実を明らかとした司法判断を尊重して、今後、指定取消を行うことによっても解消されるのであるから、法の趣旨に反して堺市長が権限行使を制限しなければならない理由はない。
 なお、指定居宅サービス事業者等の指定権限について、法改正等により現在ではこれを都道府県から市町村へと権限移譲する流れが趨勢となっている。これは、指定取消要件については、市町村にこそ適切な判断ができるとの考えによるものと言え、このような情勢を踏まえても、本件において堺市長が大阪府知事の判断に拘束されると考えるべきではない。
 以上の次第であるから、補助参加人上告受理申立の理由2(2)には理由が無く、本件上告は速やかに棄却されるべきである。

スポンサーサイト
 
 
 
 
 
 
 
 

プロフィール

福祉・介護オンブズマン管理者 日下部雅喜(くさかべまさき)

Author:福祉・介護オンブズマン管理者 日下部雅喜(くさかべまさき)
 福祉・介護オンブズネットおおさか事務局長
 介護保険料に怒る一揆の会事務局長
 大阪社会保障推進協議会介護保険対策委員
 
 

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム

ブログ内検索