2014/04/26 Sat

堺市老人介護者(家族)の会 会報記事「『介護崩壊とは』」(佐々木紫朗氏投稿)に対する書き込みについて

書き込み2

書き込み1


はじめに
 「堺市老人介護者(家族)の会」の会報(平成26年3月号)に、素晴らしい一文が掲載されている。書かれた佐々木紫朗氏は95歳。重度の要介護者本人であり、その直後に亡くなられたので、結果的に佐々木氏の「最後のメッセージ」となった。箇条書きのコンパクトな記事であるが、介護をめぐる深刻な状況を指摘しながら、「このままでは介護施策の崩壊」と警鐘を鳴らされ、一連の介護保険制度見直しの動きについても適格な批判をされている。
 ところは、この記事について、どこからか「クレーム」がつき、同会の中でこの記事に「書き込み」をしたコピーが出回っている。看過できないのでコメントすることにした。

1 書き込み者について
 誰が、どのような経過で書かれた「書き込み」なのかは不明であるが、介護保険制度改正案の内容を具体的に書いていることや、書き方のトーンからみておそらくは行政(堺市)の職員と思われる。また、「誤解と思われることは多々あります」と記載されているように、佐々木紫朗氏の論旨に批判的な人物であると推察される。

2 「一 保険制度 ・政治の改定方向」に関する書き込みについて
これは、佐々木氏も「高齢者、家族に一番の負担を押し付ける最悪の案が検討された」と明記しているように、現在国会に提出されている見直し法案のことでなく、ここ数年の間に政府内(厚労省の社会保障審議会介護保険部会等)で検討された改定案を指している。書き込み者はこれにあえて、現在の見直し案を対置して、何ヶ所も「ちがい」を指摘した上に、「ここに書かれているものは以前に国で議論されたものと思われます」と記載している。佐々木氏の投稿記事のこの項は、これまでに「検討された最悪の案」を説明しているのであって、このような書き込み自体が的外れである。まず、記事の全体の流れを読んだ上で書き込むべきである。また、分かっていて書き込んだのであれば、こうした書き込みによって、佐々木氏の記事が「間違いだらけ」の誤解に基づくものであるかのような印象を読み手に与えることをねらった悪質なものと言わざるを得ない。
なお、この間政府内で数度にわたって検討された見直し案の内容は、今次改正法案に盛り込まれていないものも含めて、2025年を目標とする「中長期改革」では実施される可能性が高いものが高いものであり、決して「以前に国で議論された内容」(書き込み)といって忘れ去るわけにはいかないものである。

政府内でこの間検討された改悪案に関する佐々木氏の記載は正確なものである。
①「※年間所得200万円以上の利用者は利用負担1割から2割負担へ」。
 2010(平成22)年11月19日の第36回社会保障審議会介護保険部会資料(「制度見直し事項の財政影響試算」)で、「高所得者の自己負担引き上げ:▲110億円程度 第6段階の自己負担2割、高額介護サービス費の上限維持」と明記されている。当時国基準の第6段階とは「合計所得200万円以上」である。
②「※低所得者の居住費の軽減給付を厳しくする」
 これも上記資料に「補足給付の支給要件の厳格化:▲20億円程度 市町村が施設入所前世帯の所得などを支給要件に追加可能」と明記されたものである。介護保険施設入所の低所得者の部屋代・食事代を補助し軽減しているが、これを削減する案であった。
③「※ケアプラン作成の有料化」
 これも上記資料に「居宅介護支援の自己負担導入:▲90億円程度 居宅介護支援月1千円、介護予防支援月5百円の自己負担」と明記されたものである。さらに、昨年12月に社会保障審議会介護保険部会がまとめた「介護保険制度見直しに関する意見」でも「ケアマネジメントの利用者負担の導入」が今後の検討課題の一つにあげられており、決して過去の問題ではない。
④「※要支援、軽度の要介護者を保険給付の対象外とする」
 これは、2008(平成20)年5月の財務省の「財政制度等審議会」において、「介護保険制度について、抜本的な見直しをせざるを得ない状況にさしかかっている」との考えで一致し、軽度者に対する介護給付の見直しによる影響額の試算を示し、介護保険見直しに向けた提言について検討されたものである。
 財政制度等審議会に提出された資料には「①要介護度が軽度の者を介護保険の対象外とした場合 介護給付費影響額▲約2兆900億円」と明記されている。
⑤「※施設の相部屋入居者から光熱費に続き、新たに部屋料を5000円徴収する」
 これは、第36回社会保障審議会介護保険部会資料で「多床室の室料負担の見直し:▲40億円程度 第4段階以上から3施設の多床室の室料月5千円を徴収」と明記されているものである。
⑥「介護危機の原因は公費抑制と公的責任放棄にある。制度改善には公費負担が不可欠である。国庫負担を1900億円から500億円程度激減したこと」
これは、介護人材の確保困難が社会問題となり。賃金改善を介護保険制度とは別枠財源で「介護職員処遇改善交付金」(賃上げ月1.5万円分、2009年10月~2012年3月))を全額国庫負担としておこなったにもかかわらず、2012年4月報酬改定で同交付金を廃止し、介護報酬の「処遇改善加算」に付け替えた際の国庫負担分削減のことである。
・「介護職員処遇改善交付金」は、全額国負担なので継続すれば単年度で1900億円国庫負担
・「介護報酬の処遇改善加算」の国負担分は25%なので、単年度で500億円程度の国庫負担ですむ。
書き込み者は、これについて「何を言われているか分かりません」などと臆面もなく記載しているが、自らの無知・不勉強をまず改めるべきであろう。
佐々木氏は、一言で表現されたが、後半できちんと「注 3%引上げや、処遇改善交付金等の若干の施策もあったが、2012年以降はかたちをかえてなくされようとしている」と注意書きをされている。
これらのことは、この間の介護職員の処遇改善をめぐる経過を知っているものであれば、誰でも分かることである。なお、上記介護保険部会資料にも「介護報酬プラス改定:500億円程度 +2%強の(1.5万円の介護職員処遇改善交付金相当)報酬改定」と明記されている。書き込み者は、過去の介護保険見直し案検討に関する資料もまともに読むことなく、佐々木氏の投稿にケチ付けをしている。

3 「二 介護制度の抜本的な改善を」及び「三 介護事業所の問題」の項について
 この項については、介護をめぐる深刻な状況について高齢者、要介護者・家族、そして介護事業所、介護労働者の問題を網羅して簡潔かつ的確に記載されておられ、正確なものである。書き込み者もこの項については一切異論を記載していない。

4「四 介護制度見直し法案」の項について
 この項については、ごく一部に不正確な部分はあるが、見直し法案に対する危惧については佐々木氏のご指摘は間違っていない。
 「・国民の声や運動の力で一部利用料の一割から二割への引上げなどは食い止めたが、保険主義がつらぬかれるため。
  ・介護の内容を減らすか、利用者の負担や保険料を増やす方向を目指している
  ・要支援で生活支援を受けていた人が『総合的生活支援サービス』と称して介護保険制度から外される
  ・市町村の都合で支援が受けられなくなる恐れがある。
  ・在宅での支援は生きるために欠かせない。」
 これについて、書き込み者は「合計所得金額160万円以上の人は2割に引き上げる案が示されている」「要支援者のサービスのうち、訪問介護と通所介護が、介護保険制度の中で予防給付から地域支援事業(新しい総合事業の介護予防・日常生活支援サービス)に移行する」と、より「正確」な表現を書き込んでいる。
 
 しかし、利用料2割負担問題は、平成22年の段階で「軽度者の自己負担の引き上げ:▲120億円程度 予防給付の自己負担2割」(同介護保険部会資料)という案が示された経過がある。これは所得に関係なく予防給付利用者(要支援者)全員を2割負担にする案である。そうした経過をよく知っている佐々木氏は、今回の一定所得以上者だけを2割負担とする見直し法案を「一部利用料の一割から二割への引上げなどは食い止めた」と表現されたのであろう。佐々木氏は「利用者に負担や保険料を増す方向を目指している」を続けて書かれておられ、利用者負担割合引上げが全面撤回されたとは認識されていないことは明らかである。

 要支援者のサービス見直し問題では、佐々木氏は「要支援で生活支援を受けていた人」と、主に訪問介護(ヘルパー)の生活援助サービスの利用者を念頭に置いて書かれているようである。そうであるならば言葉足らずであっても間違った表現ではない。
 
 佐々木氏の「介護保険制度から外される」という表現に対し、書き込み者は、「介護保険制度の中で、予防給付から地域支援事業…に移行する」と、強調している。地域支援事業もたしかに介護保険制度の一部ではあるが、「保険給付」ではない。今回の見直しは、これまで保険給付(予防給付)として全国一律の基準・単価であった訪問介護・通所介護の保険給付を廃止し、地域支援事業(市町村裁量)に移すものである。保険料を支払い、要介護・支援認定を受ければ法定の保険給付が受けられるという介護保険から外されることになる。佐々木氏に限らず、多くの方々が「要支援サービスの介護保険外し」と危惧をされているところである。
 書き込み者は、「介護保険制度の中」と強調しているが、要支援者の生活援助が保険給付から外されても、同じサービスが受けられるかどうか一切明らかにしていない。佐々木氏の「市町村の都合で支援が受けられなくなる恐れがある」との危惧にこそ応えるべきであろう。

「施設の相部屋代の制度化で低所得者が特養ホームからはじき出されようとしている」
 これについては、「相部屋の室料徴収」はたしかに、書き込み者が指摘するように今回の見直し法案にはない。しかし、以前にこの案が出された際も補足給付は、法律改正によらず、厚生労働省令改定によって変更することが可能とされており、「相部屋の室料徴収」制度化の可能性はゼロではない。
今回の見直し案が、低所得でも一定の預貯金保有者や、世帯分離しても配偶者が課税であれば、食費・部屋代補助(補足給付)の対象から外され、また、段階区分でも非課税年金(遺族年金・障害年金)まで算入するという、介護保険施設入所の低所得者をはじき出すような見直し案を示しているのは事実であり、佐々木氏の「低所得者が特養ホームからはじき出されようとしている」という危惧は現実になろうとしている。
 いずれにしても、介護保険見直しに関する法案(医療介護総合確保推進法案)が閣議決定されたのが、今年2月12日、自治体関係者に見直し案の全貌が明らかにされたのは2月25日の厚労省の全国担当課長会議資料であるから、行政関係者でも詳細を把握していない時期に書かれた佐々木氏の記事に、不正確な部分があったとしても止むを得ないであろう。

おわりに
 佐々木氏は、ご自身が重度の要介護者で、この会報が発行された今年3月末に永眠され、95年の生涯を閉じられた。この記事は、佐々木氏の「介護制度についての長年の思い」が込められたものである。
 私は、佐々木氏とは、1980年代の中ごろ初めてお会いした。佐々木氏が、戦時中に旧陸軍中野学校出身の「特高憲兵」として、国民を監視・弾圧する「軍務」につかれていたことを自ら告白され、堺市内で開かれた「国家機密法を裁く市民法廷」で「証言者」として登場されたことがきっかけである。その後、そうした「語り部」として国民の人権と民主主義のために活躍されていた。
年齢を重ね要介護状態となられたことは風の便りで知っていた。しかし、この会報を目にしたとき、短い箇条書きの記事ではあるが、介護制度について実に深く現状を分析され、「介護崩壊」の危機を憂い、政府の見直しの動きにも鋭い批判をされていることを初めて知った。介護保険制度の基本的な問題点と介護職員処遇改善問題の変遷、軽度者サービス見直しや利用者負担増案の経過についてこれだけ書ける方はめったにおられない。しかも佐々木氏は重度の要介護者で95歳だったという。私はこれだけのものを書かれた佐々木氏に深く感銘し、ぜひ、また一度お目にかかりたいと思っていたところに、亡くなられたという残念な情報に触れた。
そして、この「書き込み」である。書き込み者は、現時点の政府の見直し案を多少知っているだけで、介護保険制度の根本問題や見直し検討の経過についてもろくに調べもせず、的外れな指摘を多数行い、佐々木氏の記事が間違いだらけで「誤解」が「多々ある」ものであるかのような書き込みを行った。
佐々木氏の「長年の思い」の込められた、「遺書」であり「最後のメッセージ」というべき記事をこのように侮辱した書き込み者に対し、私は強い憤りを覚える。

「要支援を介護から外すな!必要なサービスを受けられるよう制度の抜本改善を!」
 私は、佐々木氏の記事にあるこの「最後の叫び」を受け継ぎ、微力をつくすことを誓い、志半ばに倒れられた佐々木氏への追悼としたい。 合掌

                 日下部雅喜 2014年4月26日
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Category: 介護保険見直し
 
 
 
 
 
 
 
 

プロフィール

福祉・介護オンブズマン管理者 日下部雅喜(くさかべまさき)

Author:福祉・介護オンブズマン管理者 日下部雅喜(くさかべまさき)
 福祉・介護オンブズネットおおさか事務局長
 介護保険料に怒る一揆の会事務局長
 大阪社会保障推進協議会介護保険対策委員
 
 

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